| 語り |
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ここははたご屋、古那屋の奥座敷。昨日、お医者の手当てをうけてから、ずっと眠ったままの浜路。
ふせどの横で信乃と現八 |
| 現八 |
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なに、信乃さん、あんたが犬になっただと？ |
| 信乃 |
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うむ！ 左母二郎に追いつめられ、もはやこれまでと思った時・・・突然俺は犬となり・・・
振りおろす左母二郎の刀の先をツイと身軽にかいくぐったのだ |
| 現八 |
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ふーむ |
| 信乃 |
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それがどれほど続いただろう、ふと気がついたその時には |
| 現八 |
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手の平に珠を握って倒れていたのだな |
| 信乃 |
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その通りだ |
| 語り |
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と、その時、眠っているとばかり思った浜路がか細い声で |
| 浜路 |
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信乃さん・・・信乃さん・・・ |
| 信乃 |
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おお浜路、目覚めたか！ |
| 浜路 |
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さっきからお話を聞いていました、左母二郎のこと・・・
それから信乃さんが犬になったというお話を |
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（信乃、現八、思わず顔を見合わせる） |
| 信乃 |
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しかしな、浜路、それは・・・ |
| 浜路 |
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私にも思い当たることがあるのです、大塚にいた時の事。丘の上で信乃さんと額蔵さんが
話をしている時 |
| 現八 |
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額蔵さんというのは？ |
| 信乃 |
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犬川額蔵。大塚にいた時のおれの友達だ、親友だ、いいやつだ |
| 浜路 |
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私には見えたんです。丘の上で二匹の犬が向かい合っているのが。今まで誰にもこの事を
しゃべった事はありません |
| 語り |
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と、ここまで言って浜路、再びコンコンと深い眠りについてしまった |
| 信乃 |
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ふーむ |
| 現八 |
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ふーむ。額蔵さんという人のことでが、犬川というのか？ |
| 信乃 |
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そうだ |
| 現八 |
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おれは犬飼、あんたは犬塚、それに犬川・・・なにか因縁があるのかもしれぬ。
よし！ おれはその人に会いたくなった。もしかして、額蔵さんも、おれ達のように珠を持ち、
体のどこかに、あざがあるかもしれぬ |
| 信乃 |
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会うには、武蔵、大塚に行かなければ |
| 現八 |
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よし行こう。さあ、今すぐにでも大塚へ・・・ |
| 語り |
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行こうといわれて、犬塚信乃 |
| 信乃 |
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しかし・・・しかし浜路はこの通り、まだ動かせる体ではない。
せめて、大塚まで旅が出来る様になるまでは |
| 現八 |
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看病してやるというのか？ |
| 信乃 |
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うむ |
| 現八 |
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あんたにとってそれほど大事な人なのか |
| 信乃 |
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・・・破傷風にかかったこのおれを、助けてくれた人なんだ。
それに・・・それに・・・ |
| 語り |
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口ごもる信乃の頬は赤く染まった |
| 信乃 |
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それにおれは・・・愛しているんだ、この人を！ |
