毛野 |
◆
|
どんな事情にせよ、私は千葉家の家老を斬ったのだ・・・おめおめ
つかまる位なら いっそ腹を切って死にたい。
わが父がそうしたように私も亦・・・
小文吾殿、月がのぼる時ここへ来てほしいと言ったのはその意味だ。
たった一人で死ぬのは辛い。どうか私の最期を見守っていて欲しい。苦労の末に仇討ちをした、
犬坂毛野の最期を・・・ |
小文吾 |
|
ふーむ |
語り |
|
腕を組み、思わず一つため息ついて、小文吾しばらく考えた |
小文吾 |
|
・・・さすが元家老の御子息、武士となればこその見上げた覚悟・・・
犬田小文吾、すっかり感心いたしました、と言いてぇが・・・ |
毛野 |
|
うむ? |
小文吾 |
|
そいつはおかしな考えだ。あっしは学問もなくて難しいことは言えねぇが・・・
ねえ、あんたの父っつぁんはあんたが仇討ちをして、それで死んじまったら
喜ぶと思うかねぇ。 |
毛野 |
|
それは・・・ |
語り |
|
と、その時 |
舟虫 |
|
キャーッ た、た、たいへんだよォ! |
小文吾 |
|
(階段の下を覗いて) む! あの女はたしか舟虫。どうしてこんなところに? |
毛野 |
|
知り合いか? |
小文吾 |
|
あっしがここまで引きづりこまれたのは、あの女のせいなんだ。
それはともかく、あの通りの騒ぎようなら、間もなく城の中残らず
上を下への大騒ぎになるだろう。
犬坂毛野さん、あんたが腹を切って死んでしまって、
そのあと あっしはどうなるんだ。
ちっとは、そのことも考えてもらいたい。 |
毛野 |
|
どうすれば・・・ではどうすればいいのだ、私は。 |
小文吾 |
|
あっしと一緒に逃げるのさ。ひとりじゃできないことだって、
ふたり力を合わせりゃ、どうにかなるかもしれない。
ふたり力を合わせりゃァ、ここから逃げることだって。 |
毛野 |
|
うーむ。 |
小文吾 |
|
やってみるかい、毛野さん。 |
毛野 |
|
うん! |
小文吾 |
|
よし! |
語り |
|
体の大きな小文吾と、小柄な毛野が腕をとり肩を抱き、そして
ニッコリ笑い合い・・・ |
小文吾 |
|
あっしは犬田で、あんたは犬坂・・・これもなんかの縁かも知れないなぁ。 |