| 毛野 |
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どんな事情にせよ、私は千葉家の家老を斬ったのだ・・・おめおめ
つかまる位なら いっそ腹を切って死にたい。
わが父がそうしたように私も亦・・・
小文吾殿、月がのぼる時ここへ来てほしいと言ったのはその意味だ。
たった一人で死ぬのは辛い。どうか私の最期を見守っていて欲しい。苦労の末に仇討ちをした、
犬坂毛野の最期を・・・ |
| 小文吾 |
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ふーむ |
| 語り |
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腕を組み、思わず一つため息ついて、小文吾しばらく考えた |
| 小文吾 |
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・・・さすが元家老の御子息、武士となればこその見上げた覚悟・・・
犬田小文吾、すっかり感心いたしました、と言いてぇが・・・ |
| 毛野 |
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うむ？ |
| 小文吾 |
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そいつはおかしな考えだ。あっしは学問もなくて難しいことは言えねぇが・・・
ねえ、あんたの父っつぁんはあんたが仇討ちをして、それで死んじまったら
喜ぶと思うかねぇ。 |
| 毛野 |
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それは・・・ |
| 語り |
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と、その時 |
| 舟虫 |
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キャーッ た、た、たいへんだよォ！ |
| 小文吾 |
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（階段の下を覗いて） む！ あの女はたしか舟虫。どうしてこんなところに？ |
| 毛野 |
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知り合いか？ |
| 小文吾 |
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あっしがここまで引きづりこまれたのは、あの女のせいなんだ。
それはともかく、あの通りの騒ぎようなら、間もなく城の中残らず
上を下への大騒ぎになるだろう。
犬坂毛野さん、あんたが腹を切って死んでしまって、
そのあと あっしはどうなるんだ。
ちっとは、そのことも考えてもらいたい。 |
| 毛野 |
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どうすれば・・・ではどうすればいいのだ、私は。 |
| 小文吾 |
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あっしと一緒に逃げるのさ。ひとりじゃできないことだって、
ふたり力を合わせりゃ、どうにかなるかもしれない。
ふたり力を合わせりゃァ、ここから逃げることだって。 |
| 毛野 |
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うーむ。 |
| 小文吾 |
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やってみるかい、毛野さん。 |
| 毛野 |
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うん！ |
| 小文吾 |
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よし！ |
| 語り |
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体の大きな小文吾と、小柄な毛野が腕をとり肩を抱き、そして
ニッコリ笑い合い・・・ |
| 小文吾 |
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あっしは犬田で、あんたは犬坂・・・これもなんかの縁かも知れないなぁ。 |
